69歳、金庫の鍵をゆるくしようとして止められた話

1Passwordというアプリを使っています。銀行もクレジットカードも、ネットの会員証も、ぜんぶここに預けてある「鍵の金庫」です。

その金庫を開けるための、最初の合言葉。これを1日に何回も何回も聞かれるのが、正直しんどかった。パソコンで調べものをするたび、何かにログインするたび、また出てくる。長い合言葉なので、打つたびに手が止まる。

それで私は、ジーニー(私が相棒にしているAIです)にこう言いました。

「1Passwordの最初の番号、1日に何回も聞かれるんだよ。もっと簡単な数字に変えたいんだけど、変え方を教えて」

我ながら名案だと思っていました。

■ いきなり止められた

ジーニーの返事は、こうでした。

「先に一つだけ正直に言わせてください。それは金庫のカギそのものです。簡単な数字にすると、中のカード情報やログイン情報が全部まとめて危なくなります」

……ですよね。

言われてみれば当たり前なんです。玄関の鍵が開けにくいからといって、鍵穴を大きくしたら意味がない。

でもジーニーは、そこで終わりませんでした。

「直ちゃんの困りごとは『1日に何回も聞かれること』ですよね。それ、パスワードを弱くしなくても消せます」

私の願いは「簡単な数字にすること」だと思っていたけれど、本当の願いは「何回も打ちたくない」だった。ジーニーは、そっちを見ていたわけです。

■ 保管庫は一つ、入口は四つ

そこから、状況を調べてもらいました。

私がいつも開いていたのは、インターネットの画面の中で動く「ブラウザ版」というものでした。パソコンにインストールして使う「アプリ版」とは別物です。

このへんが、69歳にはややこしい。同じ1Passwordなのに、種類があるなんて思ってもみませんでした。

ジーニーの説明はこうです。

契約している1Passwordは一つ。パスワードのデータも、雲の上に一か所。そこに入るための入口が、何種類かある。

・パソコンのブラウザ版(私が使っていたもの)
・パソコンのアプリ版
・ブラウザの拡張機能
・iPhoneのアプリ

どの入口から入っても、中身は同じ。

そして、ブラウザ版は仕組み上、しばらく放っておくと必ず鍵がかかる。だから何回も聞かれていた。

不便だったのは、私の腕前のせいでも、設定のせいでもなかった。ただ、遠いほうの入口から入っていただけでした。

ちなみにiPhoneのほうは、顔を向けるだけでスッと開いていました。あれは、はじめからアプリ版だったんですね。楽なほうの入口を、スマホでは無意識に使っていたわけです。

■ アプリは、とっくにパソコンの中にいた

「じゃあパソコンにもアプリ版を入れましょう」ということになり、公式サイトからダウンロードのボタンを押しました。

そうしたら、こう出ました。

「1Password は既にインストールされています」

……入ってた。

ずっと前から、パソコンの中にいたんです。私が気づかずに、わざわざ遠いほうの入口を毎日たたいていただけでした。

ここは笑うところです。

■ 会社のパソコンには、そもそも鍵が無かった

もう一歩進めて、「顔や指紋、暗証番号だけで開くようにしましょう」という話になりました。

私のパソコンは職場のものですが、一人部屋で他の人が使うことはまずありません。その話をしたら、ジーニーはこう言いました。

「そのパソコン、立ち上げたとき何か聞かれますか」

聞かれません。電源を入れたら、そのまま使えます。

「では、その設定にすると、パソコンを開いた人は誰でも1Passwordの中身が全部見られることになります。金庫の扉を開けっぱなしにするのと同じです」

これも、言われるまで考えたことがありませんでした。故障して修理に出すとき。返すとき。誰かが部屋に入ってきたとき。私が思っている「一人だけ」は、案外一人ではない。

そこで、Windowsのほうに4桁の暗証番号を付けようとしました。ところが設定画面には赤い字で、

「このサインイン オプションを使用するには、パスワードを追加する必要があります」

つまり、このパソコンにはそもそも元の鍵が無いので、短い暗証番号も作れない、と。

会社のパソコンを勝手にいじると後で面倒になることもあるので、ここは触らないことにしました。

■ 直したのは、設定ではなく「入口」

結論はこうでした。

私の1Passwordの設定は、すでに「1日1回だけ聞く」になっていた。それなのに何回も聞かれていたのは、ブラウザ版を開いていたから。

だから、直すのは設定ではなく、開き方。

アプリ版のアイコンを、画面の一番下の段(タスクバー)にピン留めする。これからはそこから開く。それだけ。

1日に何回も、が、1日1回に。設定は何も変えていません。

■ ついでに、一番下の段が賑やかになった

せっかくなので、よく使うものも並べてしまいました。

iCloudは、デスクトップのアイコンから開いて、下の段に出てきたアイコンを右クリックして「タスクバーにピン留めする」。これで完了。

Yahoo!メールは少し違いました。ショートカットをそのまま持っていくと、ブラウザのマークになってしまって見分けがつかない。それをジーニーに言ったら、「サイトをアプリとして入れる」という方法を教わりました。おかげで赤い専用アイコンで並んでくれています。

パソコンの一番下の段が、今日いちばん賑やかになりました。ここから何でも呼び出せる。デスクトップのアイコンを目で探さなくていい。これが地味にありがたい。

■ 今日わかったこと

一つめ。困ったとき、自分が思いついた「解決策」を言うより、「今こうなっていて、これが嫌だ」と言ったほうがいい。

私は「番号を簡単にしたい」と言いました。でも本当に伝えるべきだったのは「1日に何回も打つのが嫌だ」でした。前者のまま進んでいたら、金庫の鍵をゆるくして満足していたはずです。

二つめ。うまくいかないとき、原因が「自分の使い方が下手だから」とは限らない。今回は、ただ入口が違っただけでした。

三つめ。安全と便利は、いつも反対側にあるとは限らない。今日の答えは、安全なまま便利になりました。そういう道が必ずどこかにある、と思っておくくらいで、ちょうどいいのかもしれません。

69歳。まだまだ、遠いほうの扉をたたいている気がします。

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